第四話
岡田さんの休息
岡田さんは、やっぱり予備校をさぼった。
A進学予備校の駐輪場。自転車のサドルにまたがりながら、和美は念入りに一台一台を確認する。行儀よくずらりと並んだそのなかに、岡田さんの自転車は見当たらない。
高校3年生の和美は、この春大学受験を控えている。岡田さんは和美の同級生で、特進コースの優等生だ。模試のたびに全国100位以内に入る才女で、予備校の中でも一目を置かれている。目立つタイプではないし、制服の着こなしもイケてはいないが、女子高生らしくない飄々とした雰囲気に、和美は一方的に好感を抱いていた。
友達になるきっかけを見つけたくて、岡田さんの行動を観察しつづけたところ、和美はある法則に気づいた。岡田さんは、毎月6日はかならず予備校をさぼるのだ。
6日に重大な秘密があるのかもしれない。
謎多き天才の一端に迫った気がして、和美は翌月彼女のあとをつけることにした。
授業を早抜けし、岡田さんの通う高校の前で待ち伏せる。何百という生徒の中から、一人の女子高生を見つけられるか不安だったが、その心配を吹き消すように、放課後のチャイムと同時に、岡田さんが飛び出してきた。
参考書でふくらんだ学生鞄を荷台にくくりつけ、わきめもふらずに自転車を走らせる。
全力疾走で、岡田さんが向かった先は、オムライス専門店「ポムの樹」だった。
吸い込まれるように店に入り、慣れた手つきでメニューをひらく。和美も必死であとを追い、岡田さんに気づかれないよう入店した。
「海の幸ハァハァ、トマトクリーム、ハァオムライスをSSサイズで・・・ハァハァ」
息も整わないうちから岡田さんはオムライスを注文する。
しばらくすると和美のもとにも店員がやってきた。
「ご注文はお決まりですか?本日6日は、SSオムライスが30%オフですよ。」
もしかして・・・。岡田さんはこの30%オフのためにポムの樹にやってきた?
テーブルをそっとのぞき見る。グラスの水をぐびぐびと飲み干し、学生鞄から分厚いマンガを取り出した彼女は、シーフードがごろごろとのったオムライスをほおばり、少女マンガを読みふけった。それは、天才岡田さんの月に一度の休息日だった。
「岡田さん、自由すぎるぞ・・・。」
和美は手帳を開いた。来月の6日は日曜日になっている。
岡田さんをポムの樹に誘ってみよう。和美はそっと決意して、岡田さんと同じオムライスを注文した。